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日本刀の形態研究 第四章 日本刀の発展について 第四節 兼光、長義時代(中古刀後期)

日本刀の形態研究(八)-四

日本刀の形態研究 第四章 日本刀の発展について
第四節 兼光、長義時代(中古刀後期)

 建武中輿は足利尊氏の謀反によって敗れまたここに戦乱相次ぐ乱世の出現を見たのです。この事によって以来70余年間鍛刀界は活発となり名匠名工の輩出するもの多く日本刀発展の歴史において一時期を隔する事となったのです。この期において最も代表的な刀匠といえば長船兼光一流と長義一流ですから、兼光、長義時代の名称となります。
 この時代作刀上において種々顕著な改革が見られますが、これ等すべて後世相州伝と称されるものと深く関係するところですから、その特徴を一亘り窺い以て相州伝の本質を考えて見る事に致したいと思います。

○兼光、長義時代の作風
 造込み=造込みの点からみるとこの時代にあっては全ての太刀の寸法が著しく延びて来た事が注目されます。原寸は長いものは三尺二三寸に及び普通のものも二尺七八寸あったと考えられます。従って今日はすべて摺上無銘となって残っているものが多いのです。また長巻は前代において発生を見た如くですがこの期に至れば刃渡り著しく長さを加え二尺七八寸と推定されるのです。今日長巻直しといわれ刀に改造されたものはこの時代の作品が大部分です、この長い太刀及び長巻の存在は吉野朝時代において戦争が漸く集団的に行われるようになった結果でしょう。さらに短刀の造込みにおいて建武以後のものは従前に比べて著しく形態を異なるものとするのです。太刀の寸の延びると共に短刀もまた寸延びとなり、身巾広く重ねが薄いものが造られてきます。所謂先反短刀の出現ですが、これは略建武年間を界としてすべての刀工に例外なく見られるものです。従ってその時代建武以前より以後に亘るものは初期にあっては従来からの無反短刀を造り後期において先反短刀に転換しているのです。元重、兼光、左文字などはこのよき例といえるのです。

 地鉄=この時代のものは地鉄一般に板目である事が注目すべきです。故に大きな太刀や長巻にあっては大板目となる事は自然です。

 刃文=地鉄と同様大きな刀は大規模小さなものは小規模になるのが普通です。この時代にもまた景光後期における如く逆直丁子が依然として作られています。しかし逆になる刃文が段々と飽きられてくる傾向も窺われます。この点最も進歩的な備前鍛冶に著しく見られるもので兼光及びその一門の逆互の目所謂鋸刃といわれるものや互の目丁子、互の目等総じて揃った刃文に移り行くのです。
 ここに兼光と同時代に考えられる元重は刃文について見られるところ、直刃系統のもの多く従って景光に近い作風なので、時代的にも兼光より古いものです。
 兼光一門の鋸刃、互の目丁子などに比べて長義の大互の目丁子は少なくとも異風のものと考えなくてはなりません。しかしよく考えてみると長義の時代は貞治頃を中心としているので、兼光よりも少し後期に活躍するものです、どちらもその作風は応永備前の盛光、康光に近いといえます。ここに鍛刀界の時代的進展の方向が窺われるのでして、兼光一門より長義一流へそれから盛光へ移り行くのが、主たる潮流の動きと考えられるのです。故に兼光と長義及び続いてはその一門の互いに作風を異にするのは流派による伝法の相違によるものでなく、時代的変換の相である事を知りえるのです。
 備前にあってはその様に作風の改革が速やかに行われ変換の著しいのに、同じ国にあっても時流に疎いものも見られます。即ち永享頃にあっても吉野備前は小互の目刃を焼いていますが、これは系統からいって兼光の鋸刃から始まるものと思われます。その様に長きに亘って同一作風を維持するものは非進歩的なので、我々はこれらの作品をややともすると古く鑑る場合が多いのですが、注意すべき事柄です。
 この点から見て備前一国は最も進歩的であり、備中、山城、筑前が是に次ぐといえます。

 茎=従来茎の肉置きは充分あったが、この頃になると差ほど肉をつけないのは、茎仕立ての技術が進歩したのであり入念に造られるものです。鑢目の鮮やかなのはこの事を示す証拠でしょう。茎尻は巾があり以前の如く反りがないのも外装において柄が従来のものと違った結果と思われます。また目釘穴の大きい事が注目され備前物において特に著しいのです。目釘穴の形状は轆轤を用いたと見え、穴の中心部が細く両側皿の如く開くのですが、これ等は兼光一族に多くあるのです。
 銘字は国名と共に細かい字で切られるのですが、長義のみは例外とされる作者である事は誰しもご存知でしょう。
 以上刃文、地鉄、造込み等この時代の特徴を極めて簡単に説いたのですが、これと深く関係すると見える相州伝なるものは一体いかがな本質のものでしょうか、それについて考えてみたいと思います。


(「日本刀要覧」より)

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