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日本刀の鑑定と照明

 今回は、日本刀の鑑定法の基本と鑑賞方法について見ていきます。

 日本刀といえばすぐに正宗、一文字、虎徹と誰でも数え上げることが出来ますが、これらの名刀は武器として優秀なばかりでなく、美術品としても抜群の作品でありますから、その名が人口に膾炙している訳であります。

 一体美術品鑑賞に当たっては、適当な照明が必要である事は申すまでもありませんが、熟中刀剣鑑賞には殊に大切で、光線の取り方が悪いとあたら名刀もその真価を味得し難いものであります。
 刀鍛冶が一番苦心すると称せられる焼刃は、夜、燈火の下で見る方が昼間よりも良いです。わざわざ蝋燭の光で刃文をすかして見なければならぬという人さえあります。
 百ワットの電燈から斜下に約二メートル離れて斜に光線を受け、刀の切先が電燈の方に向く様にし、電燈の像が刀の平に映ずる位置に保って見ると誠によく刃文の状態を観取し得て、沸、匂、から進ではうつり、金筋など充分にその妙所を味わい、地肌の精粗、巧拙を吟味する事が容易であります。照度は約三十ルクスから四十ルクスくらいでそれ以上強いとかえって見にくい様であります。蝋燭の光で見るというのも丁度この程度の照明で充分な事を物語っています。即ち焔の長さ約五センチメートルの蝋燭から約三十センチメートル離れた所で丁度三十ルクスくらいの照度になるからであります。
 しかし蝋燭の光では部分的にしか照らされないから、短刀の様な短いものなら差し支えないですが、二尺以上の刀になると全体を照らす事が困難であり、結局百ワットくらいの電燈から少し離れた所で見る方がよいのです。
 ある夏の夜更けてから、眠られぬままに起き出で例の一刀を取り出して見た所、いつも見るよりも遥かに良く見えて、一層愛著の念を増しました。その原因を色々考えて見ましたが、多分次の部屋に釣ってある蚊帳の色が青く刀身に映じて清楚な感じを与えたためだろうと思って寝に就きました。後日ある書物を翻いていると「底に青みあって美しきは上作なり」とあるのを見て、成程と感じました。従って鑑刀に際しては照度と投光角度との外に、光色も一つの重要な役割を持つといい得られ様、しかしそれはむしろ当然のことであると言わねばなりません。
 月光で見た刀の感じはまた別種のものである。晴天満月の夜の照度は多分〇.二ルクスか〇.三ルクスに過ぎないために、細かい点まではっきり見る事は困難であるが、焼刃はある程度までは見られます。月光は幾分青みを帯び、それが刀身に映ずるのでありますから、清凄な感じを与えるのは無理からぬ所であります。
 
 次に鑑定研究上の着眼点について、刀剣の鑑定法を知らんとするには下の方法があります。
一、刀剣鑑定上達の二大方法

(イ)演繹法、即ち既刊書籍を研究すること。

刀剣に関しては古来、幾多の研究が発表せられ、ここの刀に関する性状は僅少の例外は別として、充分と言える程判然としているのであります。
故に我々が鑑定法を覚えようとするならば、まず第一に良書を選び、これによって鑑定の基礎を造る事が必要です。

(ロ)帰納法、即ち個々の刀について、研究して一定の法則を発見すること。
鑑定をするのは実際に刀についてするのでありますから、多くの真剣を眺める事の必要である事は多言を要しません。
個々の刀に親しく接して、一刀工の作品に通ずる所の特徴を把握する事が必要です。
ただし以上はその刀が真正なるものに限りたる場合のことであって、偽物刀を真なりと信じてその特徴を以降の鑑定の基礎とする事があるならば、大変な結果になることに注意しなければなりません。
鑑定そのものは元来演繹法であって、ここに帰納法はその前提を確立するための手段に過ぎないのであります。

 斯くの如く二つの方法が考えられるのでありますが、この二方法を完全に結合せしめて行くところに鑑定上達の秘訣が存すること疑いの余地がありません。

二、鑑定上達の実行方法

 およそ物事に熟達せんとすれば修行が必要なことは言うまでもありません。
 最良の方法は随所に所在する刀剣の研究団体に加入し、親しく実物に徴して、斯道の先輩の説を傾聴し、あるいは銘を隠してその実作者の銘を当てるという方法を行います。
正 真疑いなき在銘の刀剣を銘を見ずして確然と作者銘がわかるようになった時こそ、自分自身にも己の鑑識眼の発達せし事が知れる訳であります。

三、刀剣の鑑定をなすにつき基本となる事情

伝法の存在
(イ)親子並みに師弟、同族の作品には類似点の多く存すること。

(ロ)(イ)の関係よりして一国におけるないしは同街道に住する刀工は同一流派の鍛錬をなすもの多きこと、故に我が国のある地方地方を区切って、一流派の区域が出来、その結果として一本の刀を見た場合これは何伝の作風なる故、どこの街道で何国の作者のものです。そうして誰々の作品だという事が推察され、その結果その作品に関して従来まで実見した事がなき場合でも、何国の刀工であるくらいはいえます。

(ハ)刀は時代によって変遷するものなり。
即ち時代の要求を最も敏速に影響して格好が変革されたのであります。
今ここに、上古より現代に至るまでの作品を並べるならば、我々は平和なる時代と戦乱の時代との刀剣を区別することは容易です。

(ニ)地方地方により鉄質に差異あること。
鉄を見分けることは、鑑定における最も難事とされているところであるけれども、地方地方により産出する鉄がその性質を異にし、刀工はその地の鉄を用いた関係上、その鉄の性質を見分ける事によってどこの国で造られたかが知れる訳であります。
しかし外国より鉄が輸入せられ、あるいは製鉄業の発達から同一性質の鉄をもって各国で鍛えられたものは鉄による鑑別はできない訳であります。

(ホ)異なれる造刀法の存在。
もし全ての刀の造刀法が同一であったなら、我々は到底鑑定の業をなす事はできません。
実際はそうでなくして、大別して五の造刀法が存在しているのであります。

 

(NHK「ラヂオ・テキスト 刀剣講座」より)

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